9.20 第二回九州未来土木 in博多 講演レポート⑥
[2018.12.28]
講演Ⅵ「21世紀は森・里・川・海の復活を目指そう~環境省の支援した荒瀬ダムの撤去について~」
奥田 直久 様 環境省 地域循環共生圏プロジェクトチーム
(つなげよう、支えよう 森里川海プロジェクトチーム) 副チーム長
1986年に自然系技官として環境庁入庁。中部山岳国立公園上高地地区、
在ケニア日本大使館等での勤務を経て、環境省那覇自然環境事務所長、
生物多様性地球戦略企画室長、野生生物課長などを歴任。自然環境計画課長
として自然再生事業の推進、生態系を活用した防災・減災の考え方の普及などを担当した後、2018年7月よりサイバーセキュリティ・情報化審議官として災害対策や国土強靱化の省内調整等を担当しつつ、「つなげよう、支えよう森里川海」(地域循環共生圏推進)プロジェクトを副チーム長として推進中。
1、つなげよう、ささえよう 森里川海プロジェクト
【森・里・川・海の水・物質循環が生み出す生態系サービス】
〇プロジェクトの目標
・森・里・川・海を豊かに保ち、その恵みが循環する社会をつくります。
・森・里・川・海を支える社会、人と自然、地方と都市が共生する社会への変革をはかります。
森・里・川・海の生態系サービスがどこからきて誰が享受するのかを考えたとき、生態系サービスが生み出されている農村や漁村と、享受する都会。このサービスを守り供給する資金や人材は不足している。この関係を意識する事でお互いが支えあう仕組みを作りたい。
具体的に成熟した社会を作り、地域で経済が循環する仕組み。様々なブランディングや「安心安全、豊かさ」というものをすべての国民が享受していこうというものを目指してい る。その中で人材育成や資金作りをどう目指していくか、もしくはどうライフスタイルを変 えていくかといのを様々な取り組みを行っている。
2、生物多様性保全回復整備事業(荒瀬ダム撤去)
【生物多様性保全回復整備事業の概要】
地域の生物・生態系の有機的なつながりの確保による一体的な生物多様性の保全・回復の促進を図るため、生物多様性の保全上重要な地域と生態学的に密接な関連を有する地域における保全・回復を促す事業に対する、都道府県への交付金事業として平成24年に創設。この最初のプロジェクトとして荒瀬ダムが選ばれて2012年から2019年の計画期間の中で事業が行われた。なお、撤去のための事業は環境省の国費だけで賄われているわけではなく、様々な他省庁からの事業も入れられている。
【荒瀬ダム撤去の概要】
荒瀬ダムは、熊本県が1953年に着工し、1954年から発電事業を行っていたダムである。2000年の水利権の更新の際に、周辺の環境問題もあり、撤去すべきではないかという議論が上がっていた地元の声を受け、2002年にダムの撤去を決定。しかし、費用の捻出ができず2008年に一度凍結。そして生物多様性条約COP10が開催された2010年に、水利権更新が困難なこと等からダム撤去の方針が確認され、環境省でも前述の交付金事業の予算を確保した。それが一つのシードマネーとなって日本で初めてのコンクリートダムの撤去工事が始まった。工事そのものが環境への影響を与えてしまうということになると元も子もないので、土木技術者の方々や県の企業局が中心となり綿密な計画を立て、昨年度で撤去が完了した。撤去中は毎年2回、撤去後は年に1度委員会を開き、様々な環境モニタリングを実施している。
〇番外編・環境省の考える土木事業のあり方を考える事例 ~自然再生事業~
【自然再生事業】
2002年にできた生物多様性条約に基づく国家戦略が自然再生の重要性を提起。それを受けて自然再生推進法が制定され、ここから環境省も国交省や農水省と積極的に手を組むようになった。これはある意味、自然環境保全行政の転換期であったかもしれない。
【自然再生の基本方針】
・地域の多様な主体と参画の連携
・科学的知見に基づく実施
・自然環境学習の推進
・地域の産業と連携した取り組み
それまでの環境省は自然を守ることを優先し、国交省や農水省と戦うことが多かった。
環境省がダメというだけなら、国交省の志のある人たちと直接話をした方が早いというNGOもいた。そうした方たちとも勉強会をしながら、当時の環境省自然環境局の幹部が国交省、農水省と対峙せず協働することはないかと考えたことの1つが、自然再生事業。議員立法で作られた自然再生基本法では、地域ベースの協議会による取組みの構想や計画を、国交省、農水省、環境省が送付を受けて、専門家の意見も聞きながら助言を行いつつ、地域が主体となって事業を進めていく。荒瀬ダムの取り組みは、この法律に基づくものではないが、関係者が協議しつつ専門家の意見も聴き実施する、という同様の流れに沿って進められた。
環境省自身も、公共事業として直接、森林の回復や湖の湖岸植生の回復、新たな技術でサンゴ礁の植え付けなどの事業を、同様に行っている。
【最初のパイロット事業 釧路湿原自然再生事業】
釧路湿原の環境をラムサール条約登録時の状況に戻すために、環境省、国交省、農水省が一緒になって取り組んだ初の事業。
直線の河川を蛇行化させる取り組みなどを行い、実際に生き物が戻ってきている。
【三陸復興国立公園 祝浜自然再生施設】
東日本大震災を機に、公園区域の変更を行い、保護事業施設を計画。小さな防潮堤とスロープに簡易魚道を設置していきもののつながりを戻したり、湿地化のための細かい土砂を戻すための手作りに近い工事など、地元の中で様々な議論が続けられてる。
3、生態系を活用した防災・減災の考え方
危険な自然現象というものは今後どんどん増えていく。それが直接当たる場所、守られていない場所を少しでも少なくする。脆弱性があるところをどう低減させていくか。こういったことにどう生態系をうまく活用させていこうかと考えている。
様々な形を検証しながら、その土地に合ったものを考えることが必要。
4、まとめに変えて
森・里・川・海のつながりを回復するといっても誰がどうするのか?
環境省だけでできることは限られている。
農水省は里地里山、田園地帯の保全をしたり、国交省は河川の管理、河川の再生をする。こういった取り組みを様々な利害関係者が一緒になってやることが重要である。
協調してやることはけして簡単ではないが、目指すところが一つであれば、こういったことも取り組みが進められるのではないかと考えている。
グリーンインフラの概念を活用すれば、様々な行政目的での自然の恵みをうまく評価をしながら、地域が望む姿を作っていくことができる。森里川海の究極の課題は、我が国の土地利用をどうするかだと思っている。これから様々な取り組みをしながら考えていきたい。
【未来土木に向けて】
自然との共生を目指して、以下のような考えで進めていくことを期待。
・自然と対峙(克服)する形から、自然のことわり(理)に沿う形に
・ハードだけで解決するのではなく、ソフトと組合わせて考えることも重要
・事業を進めるに際しては、地域の関係者の間での合意形成が第一
・地域の特性を考慮し、テーラーメイドで(地域特性に即して)進めることが重要
環境を守るだけだった事業から、各省庁と協力しながら環境の再生事業へ転換するさまが
未来の土木を考えるうえでとても重要で、興味深いことだと感じました。
奥田様、ありがとうございました。
環境省
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